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 1/とある月曜日の出来事

 運が悪かった、としか言い様がない出来事だった。
 俺−香坂 匠−はたまたま、忘れ物をしたので部室に戻り、勢い良く扉を開けただけだ。
 まさか、人がいて、着替えの真っ最中だと誰も思わなかっただろう。
 …時が止まる、とはまさにこの事を言うのだろう。
 扉を開けたままの状態で固まっているし、見られた側−木元 卓美−も手に着替えのスパッツを持ったまま、半裸の格好で硬直している。
 こころなしか卓美の顔は徐々に赤く染まり、今にも顔から火が噴きそうなくらい真っ赤になっって…

「…き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 …可愛らしい悲鳴とともに、近くにあったカバンが飛び俺の顔面に当たる音がしたと同時に、俺の意識は途絶えた。


 木元 卓美。
 俺の近所に住む、俺と同い年のついでに同じ誕生日に生まれた女。
 俗に言う、幼馴染み、腐れ縁というやつである。
 顔は…まぁ、悪くはない。
 ひっこむところはひっこんでいるややスレンダーな体型。
 それだけなら異性にモテて同性に嫌われるのがオチであるが、こいつの場合、何故か同性にもそこそこ人気がある。
 実際、何人かのクラスメート(男女問わず、これ重要)が卓美に告白するために、俺に頼みにきたこともある。
 理由は多分、こいつのドジッ子ぶりだろう。
 本人は隠しているつもりだろうが、周りからすればバレバレであり、しかもこいつのドジっぷりは半端ない。
 よく物を落とす、何でもないところで転ぶといったことをするは当たり前。
 弁当の箸を忘れる、体操服の上だけ忘れる、マークシートの回答を1つずつずらして回答する、自転車の鍵を刺しっぱなしでどこかに行ってしまう…
 ちなみに、こいつの名付け親でありこいつの母親である人も、こいつ同様にドジを振舞っている。  顔も似ているし、確実に卓美は母親の遺伝子を優秀に受け継いでいると断言できる。
 つか、それで納得してしまう俺もどうかと思うが。
 そしてこいつのフォローに全て俺が入る。
 それが俺の運命かと思うと泣けてくる。

 …どれくらい経ったのだろう。
 西日で赤く染まっていた教室も、日が落ちたのか暗くなっていていた。
 そして、その教室の真ん中で、俺は卓美に膝枕をされている。
 …なぜ?
「あ、やっと気がついた〜」
 若干涙声の卓美。涙を堪えて、必至にこぼさないようにしている。
 一体どうなっているのかと思い、目で部室の可能な限りを見渡してみる。
 どうやら俺が倒れているのは入り口近くらしい。
 暗くて分かりづらいが、机やイスが倒れていて、黒板消しやチョークも床に落ちている。
 また、周辺に卓美のカバンとその中身らしい、教科書と辞書、あと小物類が散乱している。
「…あー、何かすごいことになっているみたいだけど、俺生きてるの?」
 その一言をきっかけに、
「うわぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁん!」
 卓美が泣きはじめた、俺を膝枕したまま。
「ごめんなざーーーーーーーーーーーいぃぃぃっぃ!」
 涙と鼻水が容赦なく真下の俺に垂れてくる。うわ、汚ねぇ!
 片手で必至に避けながら、俺はもう片手でポケットに入れていたハンカチを取り出し、卓美に差し出す。
 卓美はハンカチを取って、涙と垂れてる鼻水をふき取って、そのまま鼻をかむ。
 鼻をかんだハンカチを返そうとするので、そのまま持たせて泣き止むまで待つことにする。
 不意に、自分の鼻のあたりで妙に水っぽい感触があるので、ふと手を鼻に持っていき、確認してみる。
 …鼻血が出ていた。何年も鼻血を出したことなかったので、分からなかった。
 最後に鼻血を出したのはいつだろう…しばらく考えてみて思い出した。
 一昨年のバレンタイン、卓美からもらったピーナッツチョコの食いすぎで出して以来の鼻血だ。
 とてつもないアホな理由で鼻血を出していたことを思い出し、忘れようとして卓美の顔を見ている。
 そのとき、卓美も俺の顔を覗き込もうとしていて、互いに目を合わせ、見詰め合う形となった。
 …そういえば、あんまり卓美の顔をしっかりと見たことなかったな、と頭の片隅で冷静に考える俺。
 だが、身体の方はそれとは真逆で、緊張して余分なところに力が入ってしまう。
 どれくらい見詰め合っていただろう…不意に、ぐぅ〜と俺と卓美の腹から、同時に音が鳴る。
 一気に緊張の糸が切れる。
「…そろそろ、帰るか?」
「…うん…」
 俺は卓美の足から頭をどけ、立ち上がる。フラフラするが、何とか足を踏ん張ってまっすぐ立ち上がる。
 鼻血はもう止まったみたいなので、出ていた分を指でふき取る。
 忘れ物を回収した後、散らばっている卓美の荷物をまとめ、卓美に近づく。
「ほら、帰るぞ?」
 声をかけるが、卓美は泣きそうな顔で
「…足、しびれた…」
 とのたまいやがった。
 …はぁ、まったく…

 卓美を背負い、カバンを持ちながら、ゆっくりと帰り道を歩く。
「らくちんらくちん♪」
 背中で上機嫌な卓美、反対にげんなりな俺。
 忘れものを取りに来ただけなのに、カバンを投げられ気絶して、荷物(卓美)を運ばなければならなくなったとは…本当に運がない。
 深いため息をつくと、背中から一言。
「ため息つくと幸せが逃げるよ?」
 もう充分、幸せは逃げてると言いたい。


2/とある火曜日の憂鬱

 あぁ、またかという諦めの言葉しか浮かんでこなかった。
「香坂くん、頼んだよ」
「…はぁ…了解しました、先生」
 という会話のやり取りを養護教諭(保健室の先生)と交わし、先生は保健室を立ち去った。
 そして、左の奥にある備え付けのベットに向かう。
 仕切りが張られているので、それをどけると…
「う〜ん…」
 若干苦しそうな顔をして眠っている、卓美の寝顔があった。

 事の発端は、さきほどの時間が体育だったことに始まる。
 この学校は、体操服というものは存在せず、各々運動に適した服装を着て体育を行うという方針である。
 ちなみに、今季節は夏。
 暑い中、本来ならプールで体育の授業が開かれるはずであった。
 しかし今日はあいにくの雨、しかも豪雨。
 そんな中、プールをやっていては風邪をひいてしまうということで今日の体育の授業は体育館の中で行われることになった。
 今回の体育の内容は「球技」。
 要は球技であったら、何をしようと勝手である。
 なんつーアバウトな教師だ、ヤル気あるのか?いや、ないほうがいいんだけどさ。
 各人、思い思いのグループを組んでバレーボール、バスケットボール、卓球、セパタクロー、カバディ…
「いや、後ろ二つはおかしいだろ」
「は? 何か変な電波を受信しました?」
 思わず口に出してしまったところを、武智−たけち−に失礼な言葉を返された。
 一撃、頭を殴って黙らせた後、隅っこの方に行って武智と将棋を打つ。
 ちなみに、先生も了承済み。というか、きっちり話し合いをつけてOKを出させた。
「ほら、将棋の駒に"玉"ってあるじゃないですか? これって"タマ"を使っているから、球技に入りますよね?」
 体育教師半泣き、その姿を見て快感を覚えた俺はまさに外道。
 いつものように、騒がしい体育風景をBGMに、武智との1局を始める。
「ぶーぶー、レディの頭を殴るなんて紳士の風上にもおけませんわー」
「黙れ、ブチネコ。ふざけた事をぬかすと、狛犬に言いつけるぞ」
 武智の本名は武智 音子−たけち おとこ−、正真正銘小学生ボディの女である。
 狛犬とは犬塚 狛彦−いぬづか こまひこ−というこいつの彼氏のことである。
 小型ネコと大型犬…バランス悪いのに、世の中はわからんことが多い。
「とてつもなく失礼な発言をされたような気がしますが、気のせいですか?」
「気のせいだと思うから、いい加減殺意を含めた視線で俺を見るな爪を研ぐな、だからお前はネコなんだよ」
 蝶引掻かれた、あとで狛犬に言いつけてやる!

 順調に相手の駒を取り陣地に攻め込んでいるので少し辺りを見渡してみる。
 と、近くで卓美と数人のグループがバスケットボールをしていた。
 3on3を行っており、次は卓美からスタートされるみたいだ。
 正直、バスケはルールすら知らないのでやる気は全く起きないのだが…
 卓美の格好は、まさに運動を行うための服装だった。
 薄手の白いTシャツに、下は黒のスパッツ、白色の靴下に某スポーツメーカーものの運動靴。
 髪は後ろで一本に束ねてポニーテールにしているので、うなじも見える。
 なんというか、神様俺にこんな幼馴染みを与えてくれてありがとうと叫びたくなる格好だ。
 まぁ、無神論者だけど。
「こらーショーちゃん、次あなたの番ですよー」
 ブチネコが何か叫んでいるがそんなもん却下だ。俺のツボ、ポニーテールの女の子のうなじを逃してしまうと俺の中で負けたことになってしまう。
 必死に脳内のデータベースに保管、いつでも取り出せるようにショートカット作成。
 その時間、わずか2秒。世界記録を狙える早さである。
「…ふぅ…いやはや、思わぬ収穫があったものだ」
「いい加減早くせんかー!」
 ブチネコが切れて、将棋盤を☆〇徹のごとく勢い良くひっくり返す。
 飛び散る駒、舞う将棋盤、そして…重力に従い、将棋盤は落下。
「うきゃっ…!」
 卓美の頭に。
 そのまま、卓美は倒れ俺はいつものようにため息をついた後、卓美を保健室に運ぶ準備を行った。
 そして、冒頭に至る。

 たぶん、今ごろ武智は体育教師にこってり絞られ…
「いやー、今日も虚乳ちゃん(体育教師)で遊んだ遊んだ」
 武智が保健室に入ってきた。
 駄目だ、体育教師弱すぎ。
「…音子、いい加減にしとけ」
 後ろから低音の渋い声が響く、と同時に武智の身体が宙に浮く。
 武智の相方、狛犬こと犬塚 狛彦の登場である。
「香坂、迷惑をかけた」
「応、引き取ってくれてありがとうよ」
 互いに一度頷きあうと、犬塚はブチネコを抱えたまま保健室を後にする。
 これで、この部屋に残る人間は俺と卓美の2人だけになった。
 様子を見るためにカーテンを開けて卓美の顔を覗き込む。
 瞬間、目をぱっちりと開けた卓美と見詰め合う格好になる。
「ーーーーーーーーーッ!!」
 声にならない声とともに下からの強烈なストレートが的確に俺のアゴに命中し、崩れ落ちる。

 養護教諭が食事を終わらせ、帰ってきたときには気絶する俺の襟元を掴んで何度も揺らす泣き顔の卓美が発見されたという。


3/とある水曜日の部活風景

 学生生活の華と言えば、「部活」であると俺は思う。
 大会や発表会など目標に向かって頑張るといういことはそう体験できない貴重な思い出となって自身の人生に彩りを与えていくことになるだろう。
 そんな貴重な思い出を築く部活とは正反対の部活が本校には様々あるが、そのうちの一つ。
 俺が所属する「近代人類文明研究会」、通称「ヲタ研」である。

「ふと思うんだが、お前らが3次元にどんな点で魅力を感じているんだ?」
 部室に入って漫画を読んでいる最中、いきなり部長であるジョージこと長岡丈治が尋ねてくる。
 俺とイマイチこと今井智は手に取っていた漫画から目を離し、ジョージに疑惑の眼差しを向ける。
「イマイチ…とうとうジョージが壊れたな。リアルに興味を持つなんて」
「タックン…とうとう壊れたね、ジョージ。PCの向こう側が俺の世界と言っていたのに」
 それぞれ同義の言葉をジョージにかける。何気に酷い言葉が混じっているが、そんなことは気にしたら負けである。
「おまえらひどいな…まぁ、華麗にスルーするけど。ぴっちりしたスパッツ、とか」
 そう言いつつ、息を荒げ彼方の方角を見始めるジョージ。はっきり言って…外でやったら通報されるぞ。
「あ、その意見は俺も賛成」
 ジョージの意見にイマイチも賛同の手を挙げる。さすがにジョージを視界から追い出そうと必死になって顔を逸らして視界に入らないようにする努力はしているみたいだ。
 でも、同じように鼻息荒くしている時点で同属扱い決定。
 まぁ、俺もその意見は否定はしない。
 なんだかんだ言いつつ、俺ら3人は同属、同じ穴のムジナでしかないのだ。
「お前等ねぇ…3次元の特徴といったら、揺れる乳だろうが」
 ここであえて異なる意見をぶつける俺。
 するとジョージもイマイチも肩をすくめ、ため息とともに「やれやれ」といったジェスチャーをする。
「やれやれ、これだからおっぱい至上主義者はいかんね(…委員長に手を出したらコロス)」
「タックンはアレだもんなー、仕方ないよジョージ」
「おお、そうか、そういやアレだったよな、今井氏」
「そうだね長岡氏」
 2人して俺の方を見つめニヤニヤと気持ち悪い笑いを向ける。
「マテマテ、お前等何を勘違いしている。ただ単に一番目につくところを挙げただけにすぎないんだ。もちろんスパッツも好きだが、どちらかというと俺はスパッツよりブルマ、ショートパンツの方が個人的には魅力を感じる所存であります。そこのところを間違えるなよ?」
 思わず後半が敬語になっているが、俺の思いの丈を2人に対してぶつける。
 2人は俺の顔を見つめ、同時にため息をつく。やれやれ、この坊やは…というような声まで聞こえてきそうなほどの見事なため息である。
「あれだろ、タックンて鈍感とかニブチンとか言われているだろ」
「あと、地雷を踏みやすいタイプの策士。咄嗟に弱いチキンだね」
 うんうんと頷く2人。
「…表に出やがれ…ちくしょう…」
 俺には精一杯の強がりしか出来なかった。
 チキンとかヘタレとか言うな。

「じゃあな、タックン」
 そう言ってジョージは一足先に部室を出る。何でも、委員長と帰りの約束をしているらしく「遅れると、あの手この手でオレに対するイメージの低下を図ってくる」らしい。
 どんな事をするのかすごく知りたいけど、ジョージの青ざめた顔を見てやめておく。あと、元々ジョージのイメージは高くないんだから、とツッコむのもやめておく。
 そこらへんの優しさは一応俺も持っているから。
 俺が同じ状況になったときに報復されるのが怖いからとかそんな理由じゃないよ?ほんとだよ?
 「あ、俺もそろそろ帰るわ。図書室に寄りたいし」
 「了解、和見ちゃんによろしく」
 イマイチが照れながら部屋を出て行く。最近、やつは図書委員の和見一子というミニマム少女にお熱である。
 理由をつけて図書室に通うやつを俺とジョージで生暖かい視線で応援するのが最近の楽しみである。
 俺も帰ろうと荷物を整理していると、部屋をノックする音。
 扉を開けると、そこには卓美が立っていた。
「ショーちゃん、帰ろ?」

 校門で長岡・委員長のエロコンビと今井・和見ちゃんの凸凹コンビが騒動を起こしていたが、今回の話とは関係ないので明記は避けておく。
 ただ、一言。お前等、世間の目を気にしろ。


4/とある木曜日の試食会

 本日は卓美の所属する料理研究会主催の試食会。
 ゲストとして招かれた俺は、テーブルの上に広がる料理の数々に目を奪われていた…主に命の危険を感じて。
「はい、ショーちゃん、いっぱい食べてね?」
 卓美の優しい一言が死刑宣告に聞こえるのは俺の気のせいだろうか、いやない(反語)。
 そもそも、この学校には「料理」を主な活動とする部活動が4つもある。

 一つ、海原先輩が部長として所属する「美食部」。ここは和食や懐石料理を中心に作っている。
 一つ、山岡さんと栗田くんが主に活動している「東西料理部」。こちらは「美食部」と対照的に、洋食を中心に作っている。なお、この二人、「第二新聞部」にも所属している。
 一つ、荒岩くんが所属している「家庭料理研究会」。家庭でできるお手軽料理を中心に創作料理も作っている。
 そして、卓美が所属…もとい「間違えて」入部した「料理研究会」。ここは主に、「料理」を極めようとしている部活なのである…絶対的に間違った方向に。

 今回の料理は「見た目」は比較的まともな部類が多い。一部、原材料は何を使っているのか問い詰めたくなるような色をした料理、というより物体があるが。
 「あ、ショーちゃん。私が作ったの、それだよ」
 「って、お前かよ! もっとまともなもの作れよ!」
 物体Xを作成するとは…こいつ、絶対に料理スキルがマイナス方向に上昇しているな…
 卓美は期待に満ちた目で俺を見つめている。
 「や、本能的に食べると死の危険があることは重々承知していますが、幼馴染の視線を突っぱねて脱兎の如く去るという非人道的なことを行えるわけがないじゃないですか、だからその手に持っている料理道具というか凶器というか人の血に飢えたような鈍い光を放つものをそこらに置いて頂けないでしょうか、部長閣下」
 逃げ出そうとして、腰を浮かした瞬間、首筋に冷たい鉄の感触と背後に感じる凄まじい殺気…「料理研究会」の部長である鬼頭院先輩が俺の背後に立って、肩に手を当てながら、もう片方の手で果物ナイフー先輩仕様のサバイバルナイフ並の刃の分厚さーを卓美に見えない位置で俺の首に当てている。
 鬼頭院先輩が離れたことを確認して、俺は卓美が差し出してくる物体Xを正視する。
 …紫色だ…一面、紫色をしたものが一口大の大きさで5〜6個鎮座している。
 「あ、それ紫芋を使ったスイートポテトだよ」
 判明、紫色をしていたのは紫芋を使ったからか。それなら危険なものではないだろう。
 それじゃ、いただきます。


 次に目覚めたら、いつの間にか俺は家に帰っていて、丸1日分の記憶が曖昧になっていた。
 その際、卓美がえらく親切にしてくれたことが印象に残っている。


5/とある金曜日の回想劇

「しかし、よかったのかホイホイついてきて」
「なに、構わんよ。『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』、周りから味方に引き込んで最後に手に入れるというのも一つの手だ」
「まぁ、それならそれでいいんだが…」
 学校の近所に存在する高校生がいたらちょっと危ない店。
 珍しい組み合わせの人間と俺は一緒にいる。
「ふむ…意外と少ないな、予想ではお腹一杯になると思っていたが」
「まぁ、あいつは飯を食うより飲みが専門だからな」
「なるほど、いやいい勉強になった。これで私もジョージの好みがおよそ特定できた」
 ジョージの彼女(?)、江口満子。
 なぜか俺と江口は、居酒屋で飯を食っていた…何故だ?

 そもそも、俺は学校に無断で(もうバレているが)居酒屋でアルバイトをしている。
 特にここ最近は体育の芦里先生(虚乳)と保健室の牛谷先生(巨乳)が一緒に来店して、芦里先生が潰れて帰ることが多い。つか、虚乳ちゃん、泣き上戸だったのね。
 今日もきょにゅーコンビ(俺命名)が帰ったことを確認して、お見送りをかねて外に出ると、そこには江口がいた。
 ビックリしてしばらく突っ立っていたら、いつの間にか大将が俺のそばに寄って脳天に響く一撃とともに中に入ってもらえという一言を頂戴する。
 そのまま、江口に中に入ってもらってそのまま俺のバイトを終わらせてもらい、一緒に飯を食うことになった。
 以上説明終わり。
 江口は黙々と飯を食べ、俺はその姿を見ながらちびりちびりと杯を傾ける。
 しかし、こいつは一体何をしに来たんだ?
 「そうだ、タックン」
 「ぶほっ!」
 盛大に酒噴いた俺、まさか江口からタックンと呼ばれるとは。
 「あぁ、しまった。ジョージがいつも『タックン』『イマイチ』と呼んでいるのでついつい癖で呼んでしまった」
 おいそこ、真顔ぶってる振りして『ふふふ、これで私もジョージ色に染まってきたな』とかいう妄想を振りまくな、エロ○コ委員長。
 「よくわかったな」
 「地の文にツッコミを入れるな、というか本当に思っていたんかい!」
 こいつ、どんだけ特殊能力を備えているんだよ。
 「で、いいかな香坂」
 「なんだ、どんとこい。ちなみに俺の燃えるものは『巨大ハンマー ドリル ロボット』だぞ」
 「ジョージはわかるか?」
 「あいつはカオルに聞いたほうがいいだろ、ちょくちょく会っているみたいだし」
 江口香琉(カオル)、目の前の江口の双子の妹…じゃなかった、弟にして妙に女装が似合うプリティーボーイ。
 江口の間違った知識はたいだいカオル経由で受信している。やっぱりぶっ飛んだ思考をしているのは江口の弟たる所以か。
 「何…カオルめ、よくお洒落をして出かけていると思ったが、まさかジョージと逢引していたとは…やはり、姉弟好みもよく似る」
 真実はカオルとジョージ妹をくっつけようとしているだけなんだが。
 発案者俺、だって楽しそうだし。
 実際、やはり姉によく似た天然っぷりを発揮するカオルと妄想癖の強い妹ちゃんとの組み合わせは見ていて楽しいものがある。ネタとして文芸部のやつらにデート内容を記録したDVDを貸してみると、作品のインスピレーションが湧いたとのことで謝礼をいただいた。しかし、やつら帯付の諭吉様を持っているとは…襲撃計画をイマイチと俺の二人で立てておこうと決意。
 まぁ、そんなことはどうでもいい。
 とりあえず、今はいつの間にか巨大な長物を片手に持った江口をどうやって落ち着かせようか考えるのが先決だ、俺の命が危うい…

 明け方。
 ジョージから「かゆ…うま…」との留守電とともに、後ろの方から江口らしき女の声が聞こえていたような気がするが、多分俺の幻聴だろう。


6/とある土曜日の約束

 土曜日。
 週末に加え、次の日は日曜日という休みを伴った、正に一日を遊びに使ってもDA○SUKE的にもオールOKな一日。
 今日はジョージ・イマイチと一緒に電気街を散策することになっている。
 まぁ、電気街といっても最近は萌え商品を売る店が圧倒的に多くなってきているので、電気街とは言いがたい様相になっていると思うのだが。
 それはさておき、集合場所に向かうと、そこには既にジョージとイマイチが存在していた。
 「タックンおせーよ」
 「もうあれだね、罰ゲームとして俺らに飯を奢るのが団長と副団長により決定したね」
 「ちょっと待て、それはどこの世界を大いに盛り上げるための奇天烈人間の団規則だ。というか俺は平団員かよ」
 お決まりのツッコミを入れて、俺たちは決戦の舞台へ足を運ぶこととなった。

 最近「スマイル0円」を前面に押し出さなくなった某ファーストフード店で飯を食べながら、俺たちは今日の戦利品を話し合っていた。
 「はい、今から『タックンの明日の行動予定に関する俺たちの怒りを知れ、大会』を始めたいと思いま〜す」
 「ひゅーひゅー」
 訂正、俺に対する尋問が開始されていた、何故だ。
 「ちなみに、タックンの明日の行動予定は幼馴染と一緒に買い物らしいですよ」
 「一子ちゃんからの情報によると、服を見に行ってスーパーで買い物するのが定番らしいね」
 「ちょ、おま、それなんて夫婦?」
 「オーケー、言いたいことはよく分かったからジョージ黙れ、あとイマイチ、ミニマム和見の携帯メールアドレス教えろ、1000件イタズラメール送りつけるから」
 もちろん卑猥な内容のメールを中心としたものだがな、と声に出さずに顔に出す。
 ただ単に幼馴染の買い物に付き合う事がそんなに悪なのかね、と言いたい。
 そんな俺の態度に、ジョージとイマイチの怒りゲージが徐々にUP。
 「てめ、あんなsneg?みたいな幼馴染と神聖なる学び舎でイチャイチャするだけでなく、下着売り場に一緒に行って似合っているかどうか確認するとかいうイベントをやってるんしゃねぇよこのエロゲ主人公が!」
 「そうだそうだ、最近一子ちゃんから『智君の部活の人たち、ちょっと自制するように言ってくれません?』と泣きつかれたんだぜ、お前らのせいで一子ちゃんが泣いたじゃないか、泣き顔が可愛かった、お前らありがとう!」
 「シャラップ、黙らっしゃい。俺がエロゲならジョージと江口の絡みは無修正の裏ビデオになるだろ、お前たちの方が青少年にとっては有害だ、あとイマイチの叫びは俺たちに対す る不満なのか和見の萌えどころを紹介しているのかが分からん、出直して来い」
 ブーイングを行っている2人に対して的確に返しを行う俺、うーんツッコミ体質ここに極まり。
 不意に、誰かが俺の肩を優しく叩く。
 「なんだよー、今からいいとこr…」
 そこには、コメカミに漫画の怒りマークを携え、上半身裸のマスクを被ったレスラーらしき格好をしている人−腰に『店長』と書かれたプラカードを着けていた−がいた。
 「お客様、他のお客様のご迷惑となりますので…ご退場をお願いします」
 うん、まぁそうですよねー。

 お決まりのように俺たち3人は店を退却させられた。
 しかし、あの店長…2階から変形フランケンシュタイナーで客を外に投げ飛ばすか普通。生きているからいいけど。


7/とある日曜日の日常

 日曜と言えば、のんびり昼まで睡眠を貪るというのが正しい男子学生(体育会系除く)のスタイルだと断言してもいいと思っている俺だが、残念ながらそのスタイルはなかなか現実のものとなってくれないのが現状である。
「起きて〜、起きてよ〜」
 軽い揺れと共に、どこか遠くから誰かが呼ぶ声が聞こえる。
 ゆさゆさ、ゆさゆさ…細かい揺れが続き、さらに眠気を誘う。
「う〜ん…Zzzz…」
「早く起きてよ〜待ち合わせに遅刻しちゃうよ〜」
 さらに揺れが続く…わが眠りを妨げるものはゆるさんぞ…
 完全に寝ぼけている俺は、手探りで身体を揺らす誰かの手を掴み、
「あぅっ」
 布団の中に引き釣りこんだ。

 …温かい…
 徐々に覚醒し始めた俺は、何か妙に温かいものに包まれているような感触を覚えた。
 微妙に息苦しい…窒息はしないが、いつもより呼吸がしづらい。
 おまけに、呼吸をする度に何か甘い匂いがする。
 …ん? 何か右手が柔らかいものを掴んでいる。
 試しに指を動かしてみると、何か近くで悲鳴というか嬌声が聞こえ…

「あらあら、ショーちゃんと卓美、そんなに進んでいたのね〜」
「たぶんうちの馬鹿息子が卓美ちゃんを寝ぼけて布団に引き摺りこんだんだろね」
「じゃ、今晩はお赤飯ね♪」
「今のうちに一枚写真でも撮っておくか」

 …ちょっと待て、何か今非常にマズイ状況だと直感が告げている。
「ショ、ショーちゃん…」
 卓美の声が間近で聞こえる。そういえば、今日は卓美の買い物に付き合う約束があったな、と思い出す。
 勇気を出して目を開けてみると…

 身体を密着させた状態で、顔を真っ赤にしている卓美と、布団の脇で携帯電話を片手にしている母親とにこやかな笑顔を見せる卓美の母親であるおばs「亜歌莉さんよ♪」…イエスマム、亜歌莉さんがいらっしゃった。
 俺は左腕を卓美の腰に回し、右手を胸部に添えた状態で、卓美を抱き枕に就寝していたらしい。

「…オハヨウゴザイマス、お母様方と卓美様」
「おはよう馬鹿息子。いい加減、あんた専用の抱き枕を放してやったら? それとも、あんたが本棚の辞書の空き箱の中に隠しているゲームのように今からお楽しみをするのかい?」
 おい、母親。何で貴様が知っている。
「母をなめるな」
 今度から隠し場所を変えよう、今心に決めた。
 とにかく、今はこの状況をどうやって切り抜けよう…
「しょーちゃん…」
 …なんでございましょうか、卓美様。
「まだ朝だし、明日は学校なんだから、こういうのは休みの前の夜にした方がいいと思うよ…でもでも、しょーちゃんは金曜の晩は遅いし、それなら土曜の夜に」
「だぁー! 何を言い出しますかこの天然娘はー!!」
 自分で言うのもなんだが、えっちな事はいけないと思いますよ!?


 その日の夕食が赤飯と鯛の尾頭付きだったのは俺に対する嫌がらせか母親ども。
 あと、天然の炭素同素体を欲しがるんじゃありません、大人しく今日プレゼントしたジルコニアで勘弁してくれ卓美さん。それ、高いんだからマジで。


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